「カレー沢薫の淫モラルなラノベ体験」第1回 「全身貞操帯」──『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』

カレー沢薫先生の新連載!
SNSで人気の漫画家がオシリス文庫の個性的なエロを切れ味するどく語ります!

(編集部注:コラム本文でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)

今回こちら「オシリス文庫」でコラムを連載させていただくことになったカレー沢薫と申す者である。
本来ならこちらの流儀にのっとって「拙者、気の強い幼馴染からの射精管理大好き侍と申す」くらいの名乗りを挙げるべきだと思うのだが、拙者若輩ゆえ、こちらのレーベルを愛用される武士(もののふ)の方に、文字どおり名乗るほどの性癖がないのでご容赦いただきたい。
こちらの「オシリス文庫」さんはライトノベルのレーベルだとうかがっている。
ライトノベルといえば昨今異世界ものがブームになるなど、漫画などに負けず劣らずの花形コンテンツである。
オシリス文庫は紙の書籍が存在しない、デジタルのみのレーベルだそうだ。
よって、買って燃やして、また買うという行為はできないが、全作品を家から出ずにすぐ買うことはできる。
新型コロナウィルスの影響で外出自粛となっている今(編集部注:2020年5月上旬現在)、頼もしい存在である。

しかし、オシリス文庫で扱っているのは、担当の説明によると「アダルトライトノベル」だそうだ。
つまり、もし転生してスライムになったとしたら、そのスライムにはなぜか女騎士やエルフ娘の衣服を溶かす能力が備わっている、むしろそれ以外の能力はない、ということだ。

むしろエロの需要がないコンテンツの方が少ないので、エロラノベが生まれるのは必然と言ってよい。
しかし、エロの需要がある=エロを書けば人気が出る、というわけではない。
なにせ、エロも飽食の時代である、ネットの検索窓に卑猥な言葉を入れればそこはもうドスケベアイランドだ。
もはや、某国民的海産物アニメの女児パンチラで抜いているような時代ではない、今でもあえてそれで抜いているという方もいると思うが、ほかにももっといろいろある。

つまり現在エロは数が多いうえにクオリティも高いので、そんじょそこらの平凡なエロでは埋もれてしまう。
オシリス文庫では、ほかでは見られないような個性的な設定やプレイを扱っている作品も多い、ということなので、その「個性的なプレイ」などを紹介していこう、というのが当コラムのテーマである。

そうは言うても拙者雑兵の身ではあるが、毎日ピクシブ巡回という鍛錬は怠っていないので、だいたいのプレイは把握ずみな気がするでござる。

そんなわけで第1回目のテーマは「全身貞操帯」だ。

いきなり、全く知らんやつが出てきた。
貞操帯は知っている、股間周りに装着する鍵つきの器具であり、これをつけられるとセクロスすることができなくなる、その名のとおり、昔は浮気防止のための器具だったが、今では自慰防止など、相手を辱めるSMプレイ目的で使われることが多いそうだ。ちなみに男用と女用がある。

しかし、「全身」とはいったいどういうことなのか。股間のみを封印するからエロいのであって、全身やっちゃったら、もはやエロくない、というか、すでにサイズが無理めなのに買った服とたいして変わらないのではないか。

この全身貞操帯が出てくるのは『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』という作品である。
タイトルで全部言いきってしまうのがラノベの伝統芸であり、この作品もそこをちゃんと押さえているが、全部説明されたうえでもわからない。


簡単なあらすじを説明すると、タイトルに出ているヤンデレ姫は幼馴染の女騎士に思いを寄せているそうだ。
ここまでだと、いい感じの百合ファンタジーだが、当然、姫が女騎士にお姫様抱っこで救出されるような話ではない、なんのために姫がヤンデレなのか、という話である。

ヤンデレ姫は、忠義心の厚い女騎士を堕とすため、貞操帯の装着を女騎士に命じる。
好きな子にあんまりそういうことはしない方がいいと思うが、フィクションには人権を無視するところから始まる恋もあるのだ。

特別な魔術を施した貞操帯に粗相を重ねる女騎士に気をよくしたヤンデレ姫は、さらに苛酷な「全身貞操帯閉じ込めの刑」を宣言するのだった、というのが大まかなストーリーである。

普通なら、貞操帯がイケたなら今度は別の道具を……となりそうなところだが「今度は全身だ!」となるところにこだわりがあって好感が持てる。
カレーの次にオムライスではなく「大盛りカレー」をおかわりするような、無邪気さを感じる。

ここで気になるのは「全身貞操帯」のビジュアルだ。
エロというのは基本出してなんぼである、全身を覆ってしまったら逆にエロくないのではないか。
その全身貞操帯の全貌だが、ちゃんと表紙に描かれている。ひと言で言うと「全身タイツ」であり、全身を覆われているが、体の線は出ており、素材は鉄製っぽいのに乳首もバッチリ浮き出ている。

エロコンテンツに限らず、この手の衣装には「これから戦(いくさ)に行こうかという女が、敵に乳首の位置をバッチリ教えている」という謎があるのだが、この全身貞操帯は最初からエロ目的で作られているので、そりゃ乳首ぐらい出るだろうという感じだ。
確かに好きな人にとっては全裸よりもエロく見える姿ではある。

ちなみに顔は覆われていない。さすがに鉄仮面装着というのは、スケバンドラマ全盛期世代じゃないと厳しいだろう、とホッとしたのもつかの間、ちゃんと鉄仮面もあり、全身を覆われ、某特撮ヒーローの母上のようになった女騎士を恍惚とした表情で責めるヤンデレ姫、というかなりレベルの高い挿絵を見ることもできる。

だが逆に、全身貞操帯と名乗っているのに顔が出ているのは詐欺と言われかねない。
このように、この作品は本物の全身貞操帯が見たい人から、そうは言うても可愛い女の子の顔が見たい人まで楽しめる仕様になっている。

だが、まだ全身やる意味がわからんという人もいるだろう。
しかしこの全身貞操帯は、1ヵ所だけ開口している部分があるのだ。

その部分とは、言うまでもないが「アナル」である。
「アナルかよ!」と思ったかもしれないが、私も思った。普通は前の方じゃないのか、と思ったが、それではもはや貞操帯ですらない。

つまり、ほか全部を塞がれたら、唯一開いているアナルで全てを感じ取るしかない、つまり誰もが知っている某女忍者の如く、アナルの感度が3000倍になるということである。

……本当にそうなのか、気になった方はぜひ本編で確認してほしい。

著者紹介

  • カレー沢薫

    カレー沢薫

    漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。

オシリス文庫紹介

連載一覧

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2020/5/22
第1回「全身貞操帯」──『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』

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