「カレー沢薫の淫モラルなラノベ体験」第8回「バトルファック」──『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』

カレー沢薫先生の好評連載!
SNSで人気の漫画家がオシリス文庫の個性的なエロを切れ味するどく語ります!

(編集部注:コラム本文でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)

もしかして「セックス」とは戦いなのではないだろうか。

SFの方々からすると「今さらかよ」という話だとは思うが、当方若輩ゆえ、今一度確認させていただけると幸いである。
ちなみにSFとはストリートファイター、ましてスペースファンタジーではない、もちろん「セックスファイター」のことだ

古来よりイチモツは同田貫(どうだぬき)とかマグナムといった武器にたとえられてきたし、物心ついた時から男児にとってモノの大小は一大事であるという。

顔も能力も非の打ちどころがないのに、股間だけが刺されたことにすら気づかれない最新技術で作られた注射針のようにスマートなせいで、内向的にならざるを得ないという人もこの世にはいるかもしれない。

だがデカいだけでもダメだ。
むしろ得物がデカくなればなるほど、その伝説の剣を振るう技量が必要になってくる。
レベル不足の者が扱うとそれは武器ではなくただの凶器と化し、女子(おなご)からは勇者ではなく化物(モンスター)として敬遠されるようになってしまう。

ただし、いくらセックスが戦いだからといって「一撃必殺」みたいな感じでもダメだ。
本当にひと突きで相手が昇天ペガサス逝きしてしまうような技を持っていたとしても、コミュニケーションとしてそれはどうか、という話である。
つまり、持久力とかペース配分とか、セックスの起承転結を構成するゲームメイク力も必要なのだ。

これらの能力が基準値を超えていない「短小」とか「早漏」「下手くそ」など不名誉な称号を与えられ、屈辱から武器が折れてしまう者もいるとかいないとかである。

ならば女は常に男を戦わせジャッジする側かというと、もちろんそんなことはない。「オメガ」などと呼ばれないように戦(いくさ)の前には細心の注意を払っている。

ちなみに今のは突然「オメガバース」の話を始めたわけではない、ワキが臭いのはワキガ、股間が臭い女は関西圏での女性器呼称にちなんで「オメガ」というのだ。
ちょっと雅(みやび)な言い方をすると「すそワキガ」である。

ともかく女は戦場(ホテル)に入ると「内装かわいい~!」とか言いながら、いつ気づかれないように股間をワッシャワッシャ洗うかという算段を始めるので、あえて隙を見せ股間を洗わせてあげるのが、武士の情けである。
セックスは戦いだが、相手は敵ではない、どれだけ相手の意を汲んでいい試合ができるか、が肝なのだ。
また「君は股間のガバナンスがなってなさすぎる」などという評価を下されないように、人知れず膣トレに励んでいる意識高い系もいる。
この日頃の鍛錬が大事なところも戦いと同じだ。

このような、戦いとセックスの親和性の高さに目をつけてかどうかはわからないが、エロ創作には「バトルファック」というものがある。

バトルファックとは「先にイッたほうが負け」などなんらかのルールを定めて、セックスしたり、セックスまでには至らなくても、なんらかエロいことで勝敗を競うジャンルのことを指す。

二次創作でも、ケンカップルが「じゃあセックスで勝負だ!」となる話は親の顔とまではいかないが、祖母の顔くらいは見たことがある。
普通は嫌いな相手とセックス勝負なんて絶対しないと思うが、そこで「やったらあ!」となるのがフィクションのいいところだ。

ほかにもセックスで相手を骨抜きにしたり、出会い系で知り合った女子とホテルに行ったら袖からボディペイントが見えているお兄さんが出てきたりとか、エロを武器にした策略もバトルファックに分類されるそうだ。

さらに「バトル」との融合性をさらに高め、本当にセックスを試合化し、プロレス技のような性技で相手を絶頂に導く、という格闘技漫画のようなエロコミックも存在する。
これらはいわゆる「バトルヒロイン」と呼ばれるような強い女を屈服させるのが好きな人や「リョナ」と言われる女子が苦痛を与えられている姿が好きという人にも刺さるのではないかと思う。

なかには「女相撲」と聞いたらいてもたってもいられない、すぐに升席(ますせき)を確保するという女同士のバトルファックを好む人もいる。

このようにひと口にバトルファックと言ってもさまざまなのだが、オシリス文庫にも当然BF作品はある。

『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』

こちらがオシリス文庫がおすすめするバトルファック作品なのだが、まず表紙からして「バトルファック」という言葉が似合わな過ぎて笑う。


バトルファックと言ったら、日焼けして腹筋が割れた女が、胴着を着忘れてリングに上がってしまったとしか思えない格好で拳を突き出している姿を想像するが、『ミックスベリーの花束』1巻の表紙にいるのはゴシックなメイドであり、表紙自体も黒を基調とした落ち着いた感じだ。

ファックはともかくバトルの匂いが全くしない。

いったいどこがバトルかというと、郵便配達の仕事をしている主人公「砂場一匠(すなばいっしょう)」は、ある日人里離れた屋敷に郵便物を届けにいくのだが、そこにいたメイドの「カルアベリー」といろいろあって端的に言うとヤられる。

ただのドスケベお姉さんに襲われる話だったらよかったのだが、なんとその屋敷にいる「ベリー」という女たちは、快楽と引き換えに男を「植物化」させる異能生物だったのだ。

こうしてベリーたちと一匠の生死(せいし)をかけた淫らな戦いが始まる――。

ちなみに精子(せいし)を顔にかける顔謝は、女はなにも楽しくないし髪についたら大変なのであまりやらないほうがいいし、間違っても無許可でやるような真似をしてはいけない、あれはフィクションだけのものと思ったほうがいい。

話は死ぬほどそれたが『ミックスベリーの花束』はこのように、命をかけた本格的すぎるほどのバトルファック小説である。
館の中にはさまざまなルールがあり、人間の男はベリーと三度交わっただけで「植物」にされて死ぬことになる。
さらに一度ヤってしまうと、ベリーに触れただけで「虜(とりこ)」状態となり、ベリーとセックスすること以外考えられない状態になってしまう、つまりどっちにしても死ぬ感じだ。
ほかにも、一匠側に不利と思われるさまざまなルールが多数用意されている。
そんな状態で異能力を持つ女相手にどう打ち勝てばいいのだろうか?

もちろん「ファック」である。

セックスしたら殺されるなら、こちらもセックスでベリーを倒すしかない。
一匠はカルアベリー相手に持ち前の「遅漏」を活かし「なかなかイッてくれない」という、リアルでも女にとって非常に困る状況を作りだし、カルアを「ちょっと休憩させてもらっていいですか」状態にし、とりあえず逃げることに成功するのだ。

普通こういう小説の主人公は「絶倫」に設定されることが多いが、それを「遅漏」にしたところが庶民派で好感が持てる。

その後も一匠は機転をきかせて、カルアベリーからなんとか逃げることに成功するのだが、今度は別のフロアで、サディスティックなベリー「ラムベリー」と遭遇し、拘束され、耳を執拗に責められ、媚薬を使われ、簡単に言うと再びヤられる。
ここでも一匠は「絶倫」ではなく「ただの遅漏」なので、カルアとの二戦を終えて勃ちがイマイチなために媚薬が助っ人として登場するのだ。
このあくまで「遅漏」という設定を大切にするところに誠実さを感じる。

などと一匠はさまざまなベリーたちとバトルファックを繰り広げていくのだが、攻撃的なベリーだけではなく、一匠に協力的な姿勢を見せるベリーも現われ、さらに館には「姫様」なる存在がいることも示唆される。


このように本作はエロだけはなく、一匠が館内に存在する多様なルールに気づき謎を解いていくというミステリ要素やホラー要素も盛り込まれている。

ただし、人間はエロいことを考えている時、IQが2くらいになるので、エロと謎解きを同時に楽しむのは難易度が高いかもしれない。
よって、1回はエロ小説として楽しみ、賢者タイムになったらミステリとしてもう一度楽しむというふうにしたほうがいいかも知れない。

つまり1冊で二度おいしい作品ということである。

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著者紹介

  • カレー沢薫

    カレー沢薫

    漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。

オシリス文庫紹介

連載一覧

第9回以降の連載目次はこちらから
2020/8/28
第8回「バトルファック」──『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』
2020/8/14
第7回「背徳のサマーセール」──デジタル官能小説割引フェア
2020/7/31
第6回「女体化転生」──『ゲームの世界にTS転生』
2020/7/17
第5回「テレポートフェラ」──『社会人が築く亜人ハーレム 糖度200%のエッチなラブコメをあなたに』
2020/7/3
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2020/6/19
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2020/6/5
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2020/5/22
第1回「全身貞操帯」──『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』

『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』既刊紹介

  • ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~(1)

  • ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~(2)

  • ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~(3)

  • 【合本版】ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~