「カレー沢薫の淫モラルなラノベ体験」 第30回「貞操観念逆転世界」──『逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています』

カレー沢薫先生の好評連載!
SNSで人気の漫画家がオシリス文庫の個性的なエロを切れ味するどく語ります!

(編集部注:コラム本文でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)

私事だが先日「モテ」に関する、コラム集を発売した(編集部注:新潮社刊『モテるかもしれない。』)。

だが最初に出版社側から「モテ」というテーマを聞いた時、正直「今時モテとか、もういいだろう」と思っていた。

個人的に、二次元の男のことで忙しく、金や時間、クレカや内臓がいくらあっても足りない状態であり、三次元の男にモテている暇などない、というのもあった。
だがそれ以前に、世間的にも異性、または同性やそれ以外(コンプラ対策)にモテなければ意味がないという価値観はすでにオワコンのような気がしたからだ。

昔であれば「娯楽はセックスと回覧板のみ」、さらに「結婚できない奴はなにか問題がある」という風潮も今より根強かった。
そんな世界観でモテないというのは一大事だったと思う。

しかし最近は、異性または同性(後略)との交際以外にも安価で楽しい娯楽が山ほどあり、生活面においても自立できていれば、モテて食わせてくれる相手を捕まえなければいけない、ということもない。

つまり、もうモテなくてもたいして困らない時代なのだ。

そう思っていたころが私にもあったのだが、結論から言うと「場合によっては困る」場合がある。
モテないだけならいいのだが、人間は周りから「ぞんざい」に扱われ続けると「自己肯定感」が爆下がりしてしまうのだ。

「ブス」と言われて怒りが湧くのは「このドブス様に向かってブスとは、舐められたものだ」というプライドを持ち、自分に自信があるからである。
それがなければ、なにを言われても、本当のことだから仕方がない、言われる自分が悪い、と非暴力服従主義な助走段階で疲れるガンジーみたいになってしまうのだ。

そうなると周りも「こいつにはなに言っても大丈夫」となってしまい、ますます扱いがぞんざいになるという悪循環となるのだ。
またぞんざいに扱われ過ぎると、たまに優しくしてくれる人間が現われても、喜ぶどころか「こいつなにを企んでいやがる」と敵意を向けるようになってしまう。

せっかく好意を向けてくれた人を詐欺師やカルト教団扱いする人間がモテるはずがなく、最終的に男女問わず、ただの「嫌われ者」と化してしまうのだ。

それを考えれば、モテという名の「他者からの肯定」が不要とはとても言えないものがある。
しかし「モテ」と「容姿」は切り離せず、容姿というのは生まれた瞬間に決まってるため、己の財力でビジュアルを改造できるころには「やめて、もうあいつの自己肯定感はゼロよ」状態になってしまっている人もいる。

しかし「モテ」というのは時代によってわりと流動的なものであり、どんな顔が「美形」かという評価はその時代の美意識によって変わるものである。
つまり、美形にならなくても、自分の顔が美形という「設定」の世界に行けばモテるのだ。

「俺じゃなくて設定の方が変われ」と言えるほど自己肯定感が高い人間なら、モテる必要もなさそうな気もするが、今回はそんな、自分にチート能力を与えられたのではなく、世界の設定の方を変えられた男の話である。

『逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています』

これが今回紹介する作品だ。


タイトルどおり説明不要の異世界転移ものという感じだが、この作品は全く別世界に転移するというわけではない。

主人公は冒険者に仕事あっせんなどをする片田舎のギルド受付の青年「リョウ」。
自他とも認める、地味なフツメンであり、普通すぎてどこからも需要がなかったのか、いまだ童貞である。
そしてモテない人間特有の自己肯定感の低さからか、ギルドに冒険者としてS級かつ全員美女で知られるパーティー「ローゼンクロイツァー」一行がやってきても、当然事務的な対応をすることしかできない。

しかし、周囲が彼女らに「はわわ……」となっているのに対し、リョウの対応は見事に事務的なのである。
この「諦めすぎて逆に美人に動じない」という高みに達している、という意味では自信を持っていい気がする。

だが、ギルドに持ち込まれたレアアイテムである小瓶を誤って割ってしまい、その中に封印されていた「妖精」に恩人認定されてしまったことで状況は世界ごと一変する。

リョウが「モテモテになりたい」と願っていると思い込んだ妖精は、リョウを今いる世界とは男女比、そして美意識が真逆の並行世界へ、その世界のリョウと入れ替えるかたちで転移させてしまう。
しかし、フツメンは裏返してもフツメンであり、むしろリョウはちょっと悪くなっているぐらいだという、これではモテようがないのではないか。

しかし、リョウは変わらなくても先ほど訪れたローゼンクロイツァーはすご腕美女集団ではなく、地獄のドブス軍団として周囲に嘲笑される存在になっていたのである。

この世界は我々の世界よりさらにコンプラがなっていないらしく、周囲に容姿をバカにされ続けたローゼンクロイツァー一団は、元の世界と見た目も冒険者としての腕も一切変わらないのに「俺たち永遠に男に相手にされないままダンジョンとかで死ぬズッ友だょ!」と誓い合うスクールカースト最底辺グループのようになってしまっていたのだ。

「自信」というものは本人の資質ではなく「周囲からの扱い」で身につく、という教育学的にも非常に興味深い作品である。

だが、美醜の価値観が真逆の世界からやってきたリョウの目から見ればローゼンクロイツァーの面々はあいかわらず美女であり、ギルドの受付として普通かそれ以上に優しく対応してしまう。

それに色めきたったのがパーティーのリーダーで、元の世界では赤髪に巨乳の凛とした美人という扱いであった女戦士「カルラ」である。
こんなブスに優しくしてくれるなんて、これはワンチャンあるで、と思ったカルラは偶然酒場で再会したリョウに思いきって声をかけ、そのままラブホ的な酒場の部屋に連れ込むことに成功する。

この「ちょっと優しくされただけで好きになって、イケるのではないかと思う」というのは、非モテとしては相当レベルが低い、逆に言えば「まだ助かる」な状態だ。
もう一段階レベルアップすると、優しくされた時点で「なにが目的だ」と剣を抜くようになる。

そのままリョウとカルラは関係を持つのだが、その時のカルラの態度は終始「こんなブスを抱いていただき圧倒的感謝」という感じであった。
リョウからすれば絶世の美女が抱けるうえに感謝され、カルラからすれば嫌々ではなく本心から自分をイイ女と思ってくれている男に抱いてもらえるという、意外なまでにウインウインな関係になっているのだ。

しかしカルラはドブス集団の先鋒である、続いて「自分らみたいな女に優しくするなんてなにか企んでやがるぜ」ともう一段階こじらせた、おしとやかな銀髪の女エルフ・アイリスが、「どういうつもりだ?」とリョウのもとにカチこんでくる。
ちなみにエルフはこの世界では最も醜い種族とされ、一番美しいのは「ドワーフ族」とされている。
しかし、最初はなにか企んでいるだろうと詰問してきたアイリスも結局は「やっぱ自分も処女捨てたいっす」と本音をあらわにしはじめる。

このように本作は「非モテグループの逆オタサーの姫」になる話である。
オタサーにはあと、お姉さん系妖艶なヒーラー「リーズロッテ」と見た目はあどけないが老獪なしゃべり方をする美少女系獣人「月影(つきかげ)」がおり、リョウは喪女たちの前に現われた救世主として彼女たちに救いの手ではなく男根を与えていく。



その後、リョウはローゼンクロイツァーたちの旅に同行し、ハーレムを楽しみながら一団と因縁がある人妻ダークエルフなどの新しいドブス(この世界基準)と出会うなど、周囲から見ればとんでもないブス喰い道中を繰り広げることとなる。

ちなみにアイリスにはまずフェラチオをしてもらうのだが、その際のアイリスの反応もカルラ同様「こんな私にしゃぶらさせていただき、ありがたき幸せ!」と感涙にむせばんばかりであった。

このように、ただごっつぁんセックスをしているだけなのだが、相手がとにかく喜んでくれるため、読んでいる方もすごくいいことをしている気になってくる。

まさに「自己肯定感」を高めたい人におすすめな作品である。

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著者紹介

  • カレー沢薫

    カレー沢薫

    漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。

オシリス文庫紹介

連載一覧

第31回以降の連載目次はこちらから
2021/7/16
第30回「貞操観念逆転世界」──『逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています』
2021/7/2
第29回「透明人間転生」──『転移したのに透明人間』
2021/6/18
第28回「魔王軍の女性管理職」──『魔王軍の中間管理職(♀)』
2021/6/4
第27回「昼酒冒険者」──『ダンジョンが思ったよりも深くてどうしようもないので諦めて女の子を口説いていくことにした』
2021/5/21
第26回「村公認寝取り」──『掟の村 ~掟に従って俺と子作りをする女たち~』
2021/5/7
第25回「熟女騎士団」──『BBAズ 異世界で奴隷になって年上お姉さまたちに弄ばれています』
2021/4/23
第24回「セックスノート」──『あの子の“人生日誌” クラスメイトの人生を改変してエロい関係を築き上げる話』
2021/4/9
第23回「異世界親娘丼」──『楽しい貴族生活! 異世界で親娘丼ハーレム』
2021/3/26
第22回「種乞い狐」──『種乞い狐のスケベなお宿へようこそ!』
2021/3/12
第21回「フィアンセは絶倫触手」──『婚約女神の堕落試練』
2021/2/26
第20回「兵器オナホール」──『月をも砕くオナホール-史上最大のテクノブレイク-』
2021/2/12
第19回「香港」──『香港銀奇譚 中華邪仙ド貧乳エルフ師匠を性的にこらしめるやつ』
2021/1/29
第18回「全裸てるてる坊主」──『はだカノ!? 全裸で告白、濃厚エッチ!! 裸で始める彼女選び』
2021/1/15
第17回「チートスキルと風俗嬢」──『えっ、転移失敗!? ……成功?』
2020/12/18
第16回「純愛SM」──『お嬢さま調教旅行 セックスのセの字も知らない堅物カノジョをマゾペット化する6泊7日』
2020/12/4
第15回「ヒトイヌ」──『ダンジョン温泉綺譚』『天才乙女は敗北したい』
2020/11/20
第14回「紳士なオーク」──『紳士なオークを目指します』
2020/11/6
第13回「官能小説古書店」──『路地裏古書店 淫乱堂』
2020/10/23
第12回「ドスケベ奴隷少女」──『よくわかる奴隷少女との暮らし方』
2020/10/9
第11回「コンビニで即ハメ」──『コンビニで出会ったエロい女の子と爛れきった関係になりました。』
2020/9/25
第10回「アダルト同人誌ノベライズ」──『離島へ留学したらホストファミリーがドスケベで困る』『イトムスビ』
2020/9/11
第9回「触手チ〇〇゜」──『アヴァロンの迷宮 純粋無垢な姫巫女を俺の触手○○○の奴隷にする』
2020/8/28
第8回「バトルファック」──『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』
2020/8/14
第7回「背徳のサマーセール」──デジタル官能小説割引フェア
2020/7/31
第6回「女体化転生」──『ゲームの世界にTS転生』
2020/7/17
第5回「テレポートフェラ」──『社会人が築く亜人ハーレム 糖度200%のエッチなラブコメをあなたに』
2020/7/3
第4回「壁爆乳」──『となりのおっぱいさん 俺んちのクローゼットの壁から爆乳が生えているんだが』
2020/6/19
第3回「バーチャルサキュバス」──『耳の奥から癒しちゃう♪ Vtuber夢魔ぺろりの耳かき、耳舐めダイアリー』
2020/6/5
第2回「触手エステ」──『モンスターセラピー! カラダの悩み、この子たちにお任せください』
2020/5/22
第1回「全身貞操帯」──『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』

この記事で取り上げた作品

  • [新装版]逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています(1)

  • [新装版]逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています(2)

  • [新装版]逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています(3)

  • [新装版]逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています(4)