この原稿の締め切りの前日(編集部注:2021年9月30日)、日本を代表するRPGゲームの曲を手掛けた作曲家がお亡くなりになられた。
私も終身名誉村人Aとして小学生のころから当該ゲームのお世話になり、今も目を閉じればあのゲームミュージックの数々が脳内再生余裕のはずなのだが、なぜか流れるのはセーブデータが消えた時の音である。
あの音声まで氏が手掛けたかどうかは定かでないが、もしそうだったとしたら、ワクワクやドキドキだけでなく「絶望」を少年少女に言葉ではなく「音」だけで伝えきったという意味でやはり天才としか言いようがない。
このゲームがRPGを一躍世に広めたのは言うまでもないが、RPGというジャンルの誕生はゲーム界だけではなく、我々村人Aたちにとっても革命であった。
それまでゲームといえば、シューティングやアクションが主流であり、これらのゲームというのはいくら攻略法を調べてもクリアできない奴はできないのである。つまり「センス」が必要だったのだ。
もちろん練習すれば多少はうまくなるがそれもある程度で頭打ちである。
つまり現実は村人Aやゴブリンでもゲームの中に入れば誰でもプリンセスを救う配管工になれるというわけではなく、結局センスのある奴しか活躍できないし、練習してある程度はうまくなっても「練習したセンスのある奴には永遠に勝てない」という「現実と大差ないシステム」だったのである。
それに対しRPGというのは、基本的にどんな村人Zであっても攻略法を調べ、時間をかけてレベルを上げればクリアできる仕様なのだ。
「レベルを上げて物理で殴る」といったら今でこそクソゲーの代名詞みたいになってしまっているが、当時はこのシステムのおかげで世界を救う勇者になれたゴブリンが何匹もいたのである。
逆に「センスもなければレベルを上げる根気もない」というある意味「魔王」を爆誕させることにもなったが、私がゲームにはまり、高校時在学中、異性と話したのは2回だけという青春時代を送れたのは間違いなくRPGゲームのおかげである。
今でこそ、当時のような典型的ファンタジーRPGは少なくなってきているのだが、現在の創作で見られる「異世界」の世界観はこのゲームが土台になっているような気がする。
よって当時このゲームをプレイしたことがあれば、若干脳にサビがきいてきた中年でも、すんなり「異世界もの」というジャンルを受け入れることができるのだ。
このゲームの偉大なところは「勇者が魔王を倒す」という概念を一般的にしたというのもあるが、逆に「勇者が魔王を倒そうとしているあいだ、ほかにも独自の戦いをしている奴がいる」という点にスポットを当てたところだと思う。
具体的に言うとシリーズ4作目で「商人」を主人公にした章があったのだ。
これまでもジョブとして「商人」というのはあったが、この章では従来のとおりレベルを上げて物理でボスを殴るのが目的ではなく、商品を仕入れ高値で売って自分の店を持つなど、商人としてのサクセスが目的になっていたのだ。
今思えば完全に転売ヤーであり、俺こそが倒すべき巨悪、という気もするが、当時は非常に斬新で面白かったのだ。
今回紹介するのも、魔王と勇者、剣と魔法の世界で商人として戦う男が主人公の物語である。
『職業、商人』
これが、今回の紹介する作品である。
漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。
株式会社KADOKAWA発のアダルトライトノベル。300点を超える官能小説をデジタル初出で配信中。全作品が電子書籍なのでBOOK☆WALKER、Amazon、DMMなどいろんなサイトですぐ購入できます!
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