「カレー沢薫の淫モラルなラノベ体験」 第37回「エロ経済小説」──『職業、商人』

カレー沢薫先生の好評連載!
SNSで人気の漫画家がオシリス文庫の個性的なエロを切れ味するどく語ります!

(編集部注:コラム本文でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)

この原稿の締め切りの前日(編集部注:2021年9月30日)、日本を代表するRPGゲームの曲を手掛けた作曲家がお亡くなりになられた。
私も終身名誉村人Aとして小学生のころから当該ゲームのお世話になり、今も目を閉じればあのゲームミュージックの数々が脳内再生余裕のはずなのだが、なぜか流れるのはセーブデータが消えた時の音である。
あの音声まで氏が手掛けたかどうかは定かでないが、もしそうだったとしたら、ワクワクやドキドキだけでなく「絶望」を少年少女に言葉ではなく「音」だけで伝えきったという意味でやはり天才としか言いようがない。

このゲームがRPGを一躍世に広めたのは言うまでもないが、RPGというジャンルの誕生はゲーム界だけではなく、我々村人Aたちにとっても革命であった。
それまでゲームといえば、シューティングやアクションが主流であり、これらのゲームというのはいくら攻略法を調べてもクリアできない奴はできないのである。つまり「センス」が必要だったのだ。
もちろん練習すれば多少はうまくなるがそれもある程度で頭打ちである。

つまり現実は村人Aやゴブリンでもゲームの中に入れば誰でもプリンセスを救う配管工になれるというわけではなく、結局センスのある奴しか活躍できないし、練習してある程度はうまくなっても「練習したセンスのある奴には永遠に勝てない」という「現実と大差ないシステム」だったのである。

それに対しRPGというのは、基本的にどんな村人Zであっても攻略法を調べ、時間をかけてレベルを上げればクリアできる仕様なのだ。
「レベルを上げて物理で殴る」といったら今でこそクソゲーの代名詞みたいになってしまっているが、当時はこのシステムのおかげで世界を救う勇者になれたゴブリンが何匹もいたのである。
逆に「センスもなければレベルを上げる根気もない」というある意味「魔王」を爆誕させることにもなったが、私がゲームにはまり、高校時在学中、異性と話したのは2回だけという青春時代を送れたのは間違いなくRPGゲームのおかげである。

今でこそ、当時のような典型的ファンタジーRPGは少なくなってきているのだが、現在の創作で見られる「異世界」の世界観はこのゲームが土台になっているような気がする。
よって当時このゲームをプレイしたことがあれば、若干脳にサビがきいてきた中年でも、すんなり「異世界もの」というジャンルを受け入れることができるのだ。

このゲームの偉大なところは「勇者が魔王を倒す」という概念を一般的にしたというのもあるが、逆に「勇者が魔王を倒そうとしているあいだ、ほかにも独自の戦いをしている奴がいる」という点にスポットを当てたところだと思う。

具体的に言うとシリーズ4作目で「商人」を主人公にした章があったのだ。
これまでもジョブとして「商人」というのはあったが、この章では従来のとおりレベルを上げて物理でボスを殴るのが目的ではなく、商品を仕入れ高値で売って自分の店を持つなど、商人としてのサクセスが目的になっていたのだ。
今思えば完全に転売ヤーであり、俺こそが倒すべき巨悪、という気もするが、当時は非常に斬新で面白かったのだ。

今回紹介するのも、魔王と勇者、剣と魔法の世界で商人として戦う男が主人公の物語である。

『職業、商人』

これが、今回の紹介する作品である。


多くのラノベが内容を全部説明しているクソ長タイトルで顧客をつかもうとするなか「こんな、タイトルで大丈夫か?」と、某シャダイじゃなくても心配になってくる。

「大丈夫だ、問題ない」と始まった本作の主人公はもちろん「商人」なのだが、なんと名前が出てこず、ずっと「商人」で通し続けるのである。
伊達に「職業、商人」の看板を背負っているわけではない、と言わんばかりだ。

商人だけではなく、本作では「女戦士」「神官」など、キャラの名前が出てこずジョブ名で呼ばれるのが特徴である。

そんなわけでこれでもかと商人な主人公だが、実際「商人を擬人化したみたいなやつ」と、わけのわからないことを言い出しそうになるぐらい商人らしい主人公なのだ。

彼は戦争が起これば好景気になるように、魔王と勇者との戦いでフィーバーしている世の中に乗じてひと儲けしようと、勇者が育ったとされる城下町「アンデルセン」にやってきた旅の商人である。

商人の名に恥じず、まず利益を考え、正義ではなく損得で動きたいと本人は思っているのだが、自覚がないだけで、相当なドスケベ星のもとに生まれてきてしまっており、本人は関わりたくなくても、下半身の方が文字どおり面倒ごとに突っ込んでいってしまったり「ドスケベ星出身者同氏は魅かれあう」とばかりにエロい女がよってきて、ひと騒動起きたりするというファンタジーエロコメディである。

敵と戦ったりもするのだが、彼自身は戦闘能力がないため、商人としての機転や口手八丁でやりすごしていくのが見どころである。
冒頭で、世間知らずの女戦士に商品の青龍刀と自らの貞操をかけた決闘を持ちかけられた時も、「青龍刀には商人には剣の動きが見え、難なく避けられる」という細工を利用し勝利、ごっつぁんです、となるのだが、ここで商人の変わった特技が明らかになる。

彼は自らの意志で「半勃ち」にすることができるのだ。
もし異世界転生先で授けられたスキルが「半勃ち」だったら、リセットボタンを押すどころか、ゲームのカセットをじかに抜くという昭和最大の禁じ手を繰り出しそうになるが、これが意外とバカにできないスキルなのだ。

つまり挿入時にはギリギリまで小さくし、入れ終わってから大きくするという方法で、処女である女戦士にも極力痛みを与えないということが可能なのだ。
確かにフィクションとはいえ、処女がいきなり挿入されて痛みもなくよがるという描写には多少違和感を覚えていたところだ。
フルスロットル状態のものを突き立てるのがいとをかしとされているエロ創作界において、ダイナミズムを捨ててでも女体を優先するというのは好感度大である。
意外と「半勃ち」スキルは当たりかもしれないので、RPGで「半勃ち」スキルを引いてもカセットは引っこ抜かないようにしようと思う。

女戦士を皮切りに、聖騎士や大臣令嬢、果ては魔王やその秘書などとさまざまなジョブの女と関係を持つのだが、本作でもうひとつフィーチャーされているのが「女装」である。


女戦士と一戦交える1巻のあと、2巻を開いた瞬間「ここはアンデルセン女学園」と学園ものがはじまったので、2~3巻ぐらい読み飛ばしてしまったのかと思ったが、本当にいきなり「商人が女装して女学校に転入」という話が始まるのである。

唐突すぎやしないかと思ったが、連載というのはいつ終わるかわからないので「やりたいことは早めにやっとく」のは鉄則だ。
ちなみに「商人とか地味だし、やっぱり学園モノにします」という、突然バトルものになる少年漫画のようなテコ入れではなく「商いを有利にするため、アンデルセンの大臣令嬢の弱みを握る」という目的は一応ある。
しかし、ターゲットの令嬢がガチ百合の人だったため、商人は令嬢と前から百合関係のあったクラスメートのいじめっ子と3Pをすることになる。

挿入するのは商人の方なのだが、商人はあくまで自分は女子でこれは「張り型」だ、と言い張り、令嬢はそれを信じていたので、実質これは百合3Pなのだ。
古(いにしえ)より百合には「百合に挟まる男問題」というのがあるが、この作品では「俺も女の子になって挟まる」ということで無事解決である。

商人の女装は一発ネタではなく、その後も女装で辱められるシーンは出てくる。
最近は「ショタになってお姉さんに責められたい」という機運が高まっていると思ったが、それすらもう古く「俺が女の子になるんだよ」の時代が来ているようである。
さらに、最近ノリにノッている「搾精」描写もあるので、責められ系が好きな人や、女の子になりたい願望がある人にはおすすめである。

ちなみに、女戦士との決闘の時、証人として連れてこられた「神官」というキャラがいるのだが、彼女が一応本作のメインヒロインのようである。


彼女は神職でありながらエロ漫画を描くという趣味があり、飄々(ひょうひょう)とした耳年増で、商人が次々と女と関係を持つさまを見物しながらも、実は彼女自身も商人に思いを寄せているという設定だ。
第1部の最後に当たる3巻のラストでは一応神官とくっついて終わるのだが、普通のハッピーエンドとは若干ノリが違う「らしい」終わり方をするので、あまりケツがかゆくならないハッピーエンドが好きという人にもおすすめである。

『職業、商人』1~5巻好評発売中! 1巻はただいま100円で配信中です♪

著者紹介

  • カレー沢薫

    カレー沢薫

    漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。

オシリス文庫紹介

連載一覧

第38回以降の連載目次はこちらから
2021/10/22
第37回「エロ経済小説」──『職業、商人』
2021/10/8
第36回「闇堕ち聖女」──『幼馴染は闇堕ち聖女!』
2021/9/24
第35回「魔法少女(23歳)」──『神童真姫23歳、魔法少女(代理)やってます!』
2021/9/10
第34回「コンビニで拾った少女」──『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』
2021/8/27
第33回「オーククイーン」──『お前はまだオークを知らない。』
2021/8/13
第32回「舌淫紋」──『天才乙女は敗北したい 異世界で調教師始めたら変態マゾしか来ない件』
2021/7/30
第31回「ドMな戦隊レッド」──『正義の戦隊ヒーロー内でただひとりの男、レッドの苦悩』
2021/7/16
第30回「貞操観念逆転世界」──『逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています』
2021/7/2
第29回「透明人間転生」──『転移したのに透明人間』
2021/6/18
第28回「魔王軍の女性管理職」──『魔王軍の中間管理職(♀)』
2021/6/4
第27回「昼酒冒険者」──『ダンジョンが思ったよりも深くてどうしようもないので諦めて女の子を口説いていくことにした』
2021/5/21
第26回「村公認寝取り」──『掟の村 ~掟に従って俺と子作りをする女たち~』
2021/5/7
第25回「熟女騎士団」──『BBAズ 異世界で奴隷になって年上お姉さまたちに弄ばれています』
2021/4/23
第24回「セックスノート」──『あの子の“人生日誌” クラスメイトの人生を改変してエロい関係を築き上げる話』
2021/4/9
第23回「異世界親娘丼」──『楽しい貴族生活! 異世界で親娘丼ハーレム』
2021/3/26
第22回「種乞い狐」──『種乞い狐のスケベなお宿へようこそ!』
2021/3/12
第21回「フィアンセは絶倫触手」──『婚約女神の堕落試練』
2021/2/26
第20回「兵器オナホール」──『月をも砕くオナホール-史上最大のテクノブレイク-』
2021/2/12
第19回「香港」──『香港銀奇譚 中華邪仙ド貧乳エルフ師匠を性的にこらしめるやつ』
2021/1/29
第18回「全裸てるてる坊主」──『はだカノ!? 全裸で告白、濃厚エッチ!! 裸で始める彼女選び』
2021/1/15
第17回「チートスキルと風俗嬢」──『えっ、転移失敗!? ……成功?』
2020/12/18
第16回「純愛SM」──『お嬢さま調教旅行 セックスのセの字も知らない堅物カノジョをマゾペット化する6泊7日』
2020/12/4
第15回「ヒトイヌ」──『ダンジョン温泉綺譚』『天才乙女は敗北したい』
2020/11/20
第14回「紳士なオーク」──『紳士なオークを目指します』
2020/11/6
第13回「官能小説古書店」──『路地裏古書店 淫乱堂』
2020/10/23
第12回「ドスケベ奴隷少女」──『よくわかる奴隷少女との暮らし方』
2020/10/9
第11回「コンビニで即ハメ」──『コンビニで出会ったエロい女の子と爛れきった関係になりました。』
2020/9/25
第10回「アダルト同人誌ノベライズ」──『離島へ留学したらホストファミリーがドスケベで困る』『イトムスビ』
2020/9/11
第9回「触手チ〇〇゜」──『アヴァロンの迷宮 純粋無垢な姫巫女を俺の触手○○○の奴隷にする』
2020/8/28
第8回「バトルファック」──『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』
2020/8/14
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2020/7/31
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2020/7/3
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