「カレー沢薫の淫モラルなラノベ体験」 第34回「コンビニで拾った少女」──『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』

カレー沢薫先生の好評連載!
SNSで人気の漫画家がオシリス文庫の個性的なエロを切れ味するどく語ります!

(編集部注:コラム本文でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)

昔は、創作物、特に漫画は「ストーリーを消化し終わっても人気がある限りは続ける」という、ガムを味どころか物理的に消滅するまで噛み続ける方式が主流であった。
しかし、無理に引き延ばしたことによりあとになって「あの作品は『軟骨武術会編』で終わらせるべきでしたな」と、語尾が変なオタクにケチをつけられ、かえって名作になり損ねる場合もある。

よって、最近は人気作品でも、無理な引き延ばしはせずキリのよいところでタイトに終わらせることが増えているように感じる。

人気作品でもわりと早めに切り上げる時代になったということは「不人気作品は光の速さで切られる」ということだ。

コミック1巻発売1ヵ月で終了が決まるなどもはや当たり前で、酷い時には発売前から見込みなしと判断され「電子版のみ発売」という滅びの呪文を唱えられることもしばしばだ。
昔であれば「やたら分厚い1巻が出る」というのが打ち切り漫画の定石だったが、最近は紙で出るだけでも御の字であり「1巻が紙で出て、2~3巻がまとめて電子だけで出る」というのが、我々の逆ウィニングロードのテンプレになりつつある、ちなみに「まとめて」というところがミソだ。

もちろん電子版のみであれば際限なく出せるというわけではない、売れなければ、てめえにやる原稿料もギガ数もないのだ。
よって紙本でも電子でも、巻数が多い作品は「作者がその出版社の社長」でもない限りは人気作と思っていい。

今回紹介するのは巻数を見ただけで「オシリス文庫の人気作」とわかるものだ。

『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』


タイトルに「7日」とあるが、なんと12巻で完結している、7日やるつもりで始めて3日目に打ち切られるような我々としてはうらやましい限りだ。

ノベル展開だけではなくコミカライズもされており「社長が書いている」という可能性も捨てきれないが、おそらく人気作である。

この物語はフリーターの主人公「比良克樹(ひらかつき)」がコンビニの外にあるタバコ自販機の横にいた、「拾ってください」と書かれた段ボールの札を首にかけた女子「麻友(まゆ)」を拾うところから始まる。
これを読んでいるクーデレ女子のみなさまはもちろん、たとえ不愛想なだけのブスであっても絶対に真似してはいけない行為だ。
現実でこういうことをして声をかけてくれるのはラノベの主人公ではなく、倫理観が著しく欠けている人、運がよくて警察である。

ただ麻友の方も「こうしていれば、ヤレヤレという態度を隠さないが実は面倒見がいいラノベ主人公が拾ってくれる」と思ってやっているわけではない。

実際、当初麻友に声をかけてきたのは倫理観が著しく欠けていそうなタイプの中年男性であり、それを見るに見かねて克樹が助けたのがふたりの出会いである。

しかし、助けられたにもかかわらず麻友の態度は冷淡なものであった。

遅ればせながら「クーデレ」というのは「クール&デレ」の略であり「ツンデレ」を教祖とするデレ一派の幹部である。

主人公に対し攻撃的で、ある意味最初からホットであるツンデレに対し、クーデレは一見冷淡かつ、こちらに無関心であり、それがデレに転じる瞬間がツンデレよりもホットだと評する者も多い。

この「○○デレ」はギャップヒロイン演出としてよくある手法だが、意外とツンやクールとデレとの塩梅(あんばい)が難しいのである。
あまりにも最初のツンが過ぎると、その時点で気が弱いタイプは「すみません! 二度と話しかけません!」と、デレを出す前にいなくなってしまう。
かと言ってあまりにもツンがなくデレが早いと「ッンデレ」になってしまい、ツンデレヒロインとして不完全なうえに発音もしづらい。

しかし、やたらデレが早いヒロインも「チョロイン」や「即オチ」として楽しむ人もいるので、この世界は奥が深すぎる。

麻友は助けてくれた克樹に対し「対価として体を要求されるなんて想定ずみです」と冷めた様子で、克樹はそんな麻友に呆れながらも、声をかけてくるのが著しく倫理観が欠けているだけのおじさんだけならまだいいが、このままだと犯罪に巻き込まれることが目に見えた麻友をほっとくことはできず、結局自分のアパートに連れ帰ることになる。

夜、狭い部屋の中、男女がふたり、なにも起きないはずはなく、と誰もが思うなか、初日はマジでなにも起きない。
もしかして俺はオシリス文庫の中の全年齢対象作品を見せられているのか、と100円ショップ内の「300円商品」をレジに持っていってしまったかのような衝撃を受けたが、もちろんことには及ぶ、しかし及ぶに至る「心情」をかなり大事にしているのがこの作品の人気の秘密ではないかと思う。

結局、麻友の挑発により、なかばなし崩し的に関係を持つふたりだが、麻友がそういった行動に出るのも、既成事実作りというより、ここにいていい理由、そして誰かとつながりが欲しいというものであった。
なぜ麻友がそう思うようになったか、そもそもどうしてあんな危うい真似をしていたかというと、それは麻友の複雑な家庭環境に理由がある。

簡単に言うと、外に突っ立てても倫理観のない奴の餌食になる可能性があるが、むしろ家にいた方が確で倫理ジェノサイダーにやられるうえ、さらにそれには非常に近しい肉親が加担している。
つまり、家の中で身内の鬼畜に食われるか、外で見ず知らずの外道にやられるかの地獄の二択の末、まだラノベ主人公が話しかけてくる可能性がワンチャンある後者にしたという過酷な理由があったのだ。

対する克樹の方も、とある理由で家庭崩壊を経験している。
つまり本作は「家族」にトラウマのあるふたりが寄り添い過去を乗り越え新しい「家族」を築いていくという一大ラブストーリーなのである。
ただそのあいだに頻繁にエロいことをしているが、どのラブストーリーだって省略しているだけで頻繁にエロいことをしているに決まっている。
むしろそこを略していないぶんだけ「丁寧なラブストーリー」と言える。

途中、体の関係からはじまってしまったがゆえに、麻友を好きになるほど「傷をなめ合うだけの関係は嫌だ」と逆に麻友を抱かなくなってしまうという、我々でいうところの「推しキャラを好きになり過ぎてエロ二次創作が見られなくなる現象」が起こるのも共感度が高い。

また、いくらストーリーが秀逸でも、クール部分は本気でぶん殴りたいし、デレは鼻についてぶん殴りたいと言うヒロインではどうしようもない。
麻友がとにかくカワイイというのも人気の秘密だと思う。正直デレに転じるのは早いので「せめて7日はカマドウマを見るような目で見てほしかった」という人には物足りないかもしれないが、クールさは寂しさと弱さの裏返し、デレてからはなにがあってもそばにいる、あなたは私が幸せにするというママみさえ感じるヒロイン力を発揮し、プレイも裸エプロンから、アイドル、マイクロビキニ、猫耳など、さまざまなコスチュームで応じてくれる。




同時に麻友の母親の問題や、克樹の父親のことなど、シリアスな展開も続いていくが、ふたりの関係に盤石感があるため、安心して読み進むことができる。

そして最終的に、家族間の問題もクリアしていき、ふたりは大団円を迎えることとなる。
ちなみに、フリーターだった克樹は途中で就職もしているので「どれだけ愛があっても男が非正規雇用な時点で不安でしかない」という女性読者もニッコリだ。

斬新かつ奇をてらった作品が並ぶ中で本作は、傷を負った男女が出会って絆(きずな)を深めてハッピーエンドという王道中の王道だがあらためて「やっぱ、こういうの好きやわ」と思わせてくれる。

「アザラシの睾丸とかいろいろ食ってみたけど、やっぱり白米がいちばん美味い」
そんな当たり前に気づきたい人はぜひ読んでみてほしい。

『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』1~12巻&コミカライズは主要電子書店で好評配信中です♪

コミック無料試し読み


著者紹介

  • カレー沢薫

    カレー沢薫

    漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。

オシリス文庫紹介

連載一覧

第35回以降の連載目次はこちらから
2021/9/10
第34回「コンビニで拾った少女」──『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』
2021/8/27
第33回「オーククイーン」──『お前はまだオークを知らない。』
2021/8/13
第32回「舌淫紋」──『天才乙女は敗北したい 異世界で調教師始めたら変態マゾしか来ない件』
2021/7/30
第31回「ドMな戦隊レッド」──『正義の戦隊ヒーロー内でただひとりの男、レッドの苦悩』
2021/7/16
第30回「貞操観念逆転世界」──『逆転異世界で嫁き遅れSランク女冒険者たちに迫られています』
2021/7/2
第29回「透明人間転生」──『転移したのに透明人間』
2021/6/18
第28回「魔王軍の女性管理職」──『魔王軍の中間管理職(♀)』
2021/6/4
第27回「昼酒冒険者」──『ダンジョンが思ったよりも深くてどうしようもないので諦めて女の子を口説いていくことにした』
2021/5/21
第26回「村公認寝取り」──『掟の村 ~掟に従って俺と子作りをする女たち~』
2021/5/7
第25回「熟女騎士団」──『BBAズ 異世界で奴隷になって年上お姉さまたちに弄ばれています』
2021/4/23
第24回「セックスノート」──『あの子の“人生日誌” クラスメイトの人生を改変してエロい関係を築き上げる話』
2021/4/9
第23回「異世界親娘丼」──『楽しい貴族生活! 異世界で親娘丼ハーレム』
2021/3/26
第22回「種乞い狐」──『種乞い狐のスケベなお宿へようこそ!』
2021/3/12
第21回「フィアンセは絶倫触手」──『婚約女神の堕落試練』
2021/2/26
第20回「兵器オナホール」──『月をも砕くオナホール-史上最大のテクノブレイク-』
2021/2/12
第19回「香港」──『香港銀奇譚 中華邪仙ド貧乳エルフ師匠を性的にこらしめるやつ』
2021/1/29
第18回「全裸てるてる坊主」──『はだカノ!? 全裸で告白、濃厚エッチ!! 裸で始める彼女選び』
2021/1/15
第17回「チートスキルと風俗嬢」──『えっ、転移失敗!? ……成功?』
2020/12/18
第16回「純愛SM」──『お嬢さま調教旅行 セックスのセの字も知らない堅物カノジョをマゾペット化する6泊7日』
2020/12/4
第15回「ヒトイヌ」──『ダンジョン温泉綺譚』『天才乙女は敗北したい』
2020/11/20
第14回「紳士なオーク」──『紳士なオークを目指します』
2020/11/6
第13回「官能小説古書店」──『路地裏古書店 淫乱堂』
2020/10/23
第12回「ドスケベ奴隷少女」──『よくわかる奴隷少女との暮らし方』
2020/10/9
第11回「コンビニで即ハメ」──『コンビニで出会ったエロい女の子と爛れきった関係になりました。』
2020/9/25
第10回「アダルト同人誌ノベライズ」──『離島へ留学したらホストファミリーがドスケベで困る』『イトムスビ』
2020/9/11
第9回「触手チ〇〇゜」──『アヴァロンの迷宮 純粋無垢な姫巫女を俺の触手○○○の奴隷にする』
2020/8/28
第8回「バトルファック」──『ミックスベリーの花束 ~Melty Berry, Melty Bouquet~』
2020/8/14
第7回「背徳のサマーセール」──デジタル官能小説割引フェア
2020/7/31
第6回「女体化転生」──『ゲームの世界にTS転生』
2020/7/17
第5回「テレポートフェラ」──『社会人が築く亜人ハーレム 糖度200%のエッチなラブコメをあなたに』
2020/7/3
第4回「壁爆乳」──『となりのおっぱいさん 俺んちのクローゼットの壁から爆乳が生えているんだが』
2020/6/19
第3回「バーチャルサキュバス」──『耳の奥から癒しちゃう♪ Vtuber夢魔ぺろりの耳かき、耳舐めダイアリー』
2020/6/5
第2回「触手エステ」──『モンスターセラピー! カラダの悩み、この子たちにお任せください』
2020/5/22
第1回「全身貞操帯」──『ヤンデレ姫と女騎士と淫らな全身貞操帯』

この記事で取り上げた作品

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(2)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(3)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(4)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(5)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(6)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(7)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(8)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(9)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(10)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(11)

  • クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間(12)

  • 【単話コミック】クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間

  • 【コミック合本版】クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間①

  • 【コミック合本版】クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間②

  • 【コミック合本版】クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間③

  • 【コミック合本版】クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間④